九鬼周造 『「いき」の構造 他二篇』について

九鬼周造 『「いき」の構造 他二篇』 東洋思想
九鬼周造 『「いき」の構造 他二篇』

本書には九鬼周三の『「いき」の構造』の他に『風流に関する一考察』、『情緒の系図』の二篇を収録。

「いき」の構造

九鬼周造の『「いき」の構造』は、日本独特の美意識である「いき」について哲学的に分析した著作です。1930年に発表されたこの論考は、日本文化論の古典的名著として知られています。

九鬼は「いき」を意識現象として捉え、その構造を内包的構造と外延的構造に分けて分析しています。内包的構造として、「いき」は以下の3つの要素から成り立っていると述べています[1][3]:

  1. 媚態:異性に対する色気や魅力
  2. 意気地:気概や心の強さ
  3. 諦め:執着しない態度

これら3つの要素が絶妙なバランスで組み合わさることで「いき」が成立すると九鬼は主張します。「媚態」が基調となり、「意気地」と「諦め」がその性格づけをしているのです[3]。

「媚態」は異性を意識した二元的態度であり、相手との距離を限りなく近づけようとしながらも、決して一体化しない緊張関係を保つことが重要です[1]。「意気地」は江戸文化の道徳的理想を反映し、「媚態」に対して一種の反抗を示す強さを持った意識です[1]。「諦め」は仏教的な無常観に基づく、執着しない態度を指します[3]。

九鬼は「いき」の具体的な表現についても詳しく論じています。例えば、着物の柄では縦縞が「いき」であるとし、その理由を縦縞が永遠に交わらない二元性を表現しているからだと説明しています[5]。また、姿勢をやや崩すこと、細面の顔立ち、抜き衣紋の着こなしなども「いき」の表現として挙げられています[9]。

外延的構造の分析では、「いき」とその類語を8つのパラメータで表現し、それらを人性的一般存在と異性的特殊存在の2つの公共圏に分類しています[7]。これにより、「いき」と関連する概念の位置づけを明確にしています。

九鬼は「いき」を日本固有の美意識として捉え、西洋の類似概念との安易な比較を避けています。例えば、フランス語の「シック」や「コケット」といった言葉と「いき」を同一視することを否定し、「いき」の独自性を強調しています[4]。

『「いき」の構造』の特徴として、難解な哲学用語を用いながらも、歌舞伎や浮世絵、文様、建築など具体的な事例を多く引用していることが挙げられます[5]。これにより、抽象的な概念を読者にわかりやすく説明することに成功しています。

九鬼は本書の最後で、「いき」をありのままに把握しようとしたが、結局は概念的な把握に留まったと自己反省しています[5]。これは、感覚的なものを言葉で完全に説明することの難しさを示唆しています。

『「いき」の構造』は、日本文化の深層に迫る試みとして高く評価されています。九鬼の分析は、日常的に使われる「いき」という言葉の奥深さを明らかにし、日本人の美意識や価値観を理解する上で重要な視点を提供しています[7]。

本書は、哲学書でありながら、読者を楽しませる要素も含んでおり、九鬼の個人的な美意識や好みが垣間見える箇所もあります[7]。これにより、難解な内容でありながらも、多くの読者を惹きつける魅力を持っています。

『「いき」の構造』は、日本文化論の古典として今なお読み継がれ、日本人の美意識や文化的アイデンティティを考える上で重要な示唆を与え続けています。

Citations:
[1] https://koten.sk46.com/sakuhin/iki.html
[2] https://www.aozora.gr.jp/cards/000065/files/393_1765.html
[3] https://note.com/000lab/n/nd645e331a7c4
[4] https://www.flierinc.com/summary/609
[5] https://meshi-atsu.com/?p=242
[6] https://1000ya.isis.ne.jp/0689.html
[7] https://matoyomi.hatenablog.com/entry/20140222/1393043758
[8] https://www.fijifiji.site/entry/2023/05/28/%E6%9B%B8%E8%A9%95%EF%BC%86%E4%B8%80%E8%A8%80%E8%A6%81%E7%B4%84%EF%BC%9A%E3%81%84%E3%81%8D%E3%81%AE%E6%A7%8B%E9%80%A0_%E4%B9%9D%E9%AC%BC%E5%91%A8%E9%80%A0%E8%91%97
[9] https://booklog.jp/item/1/4003314611

風流に関する一考察

九鬼周造の『風流に関する一考察』は、日本の美的理念である「風流」について深く考察した論文です。この作品は、昭和12年(1937年)に発表され、後に『文芸論』に収録されました[1]。

風流の構造

九鬼は「風流」に三つの契機があると主張しています:

  1. 離俗: 社会的日常性における世俗を断つという道徳性
  2. 耽美: 新たに充実されるべき生活の内容としての芸術性
  3. 自然: 離俗と耽美の総合としての契機

九鬼によれば、風流においては世俗性を清算して自然美へ復帰することが要求されます[1]。

風流の意義

九鬼は風流を単なる特定の時代の美的理念としてではなく、すべての美的理念の奥にあってそれらを創出する最も根源的で日本的な美的理念として捉えています[1]。

彼は『笈の小文』の有名な一節を引用しながら、風流の意義を明らかにしようとしています。九鬼は「風流」を「苦界」と結びつけ、そこに彼の「いき」の存在学が表現されていると考えられます[2]。

風流の特徴

九鬼は風流を以下のように特徴づけています:

  • 「風の流れ」のような自由さ
  • 世俗を絶ち、因習を脱し、名利を離れる気迫
  • 世俗的価値の破壊または逆転
  • 自然美と人生美の体験
  • 旅と恋が風流人の生活に本質的意義を持つ
  • 自然と人生と芸術が渾然一体となる[8]

「いき」との比較

九鬼は『「いき」の構造』と同様の分析方法を「風流」にも適用していますが、両者の扱いには違いがあります:

  1. 「いき」は趣味として理解され、鑑賞者中心の享受的美学とされる
  2. 「風流」は美的生活を目指す創造者中心の能動的美学、詩作論とされる[5][10]

風流論の位置づけ

九鬼の風流論は、当時の国文学の成果を踏まえつつ、立体を用いての構造分析という斬新な手法を取り入れています。彼は「風流正八面体」を用いて、「風流」という根源的な美的理念が歴史上取り得るあらゆる形態を位置づけようとしました[1]。

結論

九鬼周造の『風流に関する一考察』は、日本の伝統的美意識である「風流」を哲学的に分析し、その構造と意義を明らかにしようとした重要な論考です。彼は風流を単なる美的概念としてではなく、日本文化の根底にある根源的な美的理念として捉え、その多面的な性質を体系的に理解しようと試みました。

この論考は、九鬼の日本文化論の一つの到達点であり、彼の美学的思考の深さと独創性を示すものといえるでしょう。「離俗」「耽美」「自然」という三つの契機を通じて風流を分析する手法は、日本の美意識を理解する上で今なお重要な視点を提供しています[1][2][8]。

Citations:
[1] https://hosei.ecats-library.jp/da/repository/00004741/kyoyo90_daito.pdf
[2] https://1000ya.isis.ne.jp/0689.html
[3] https://squatyama.blog.ss-blog.jp/2017-03-10
[4] https://yama.kitashirakawa.jp/yama-blog/?p=59939
[5] https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/1564202/p037.pdf
[6] https://note.com/oage012/n/ne7d4bf03608d
[7] https://ameblo.jp/novalis666/entry-10000707302.html
[8] https://ichijyo-bookreview.com/2012/01/post-659.html
[9] https://booklog.jp/item/1/B071ZV7G9Q
[10] https://cir.nii.ac.jp/crid/1390853649694719616

情緒の系図

九鬼周造の著作『情緒の系図』は、日本の感情表現の豊かさと複雑さを体系的に分析した哲学的な作品です。この作品は、日本人の情緒的な側面を深く掘り下げ、その構造を明らかにしようとする試みとして高く評価されています。

作品の概要

『情緒の系図』は、九鬼周造が日本の感情表現を詳細に分析し、その関係性を系図として表現した独創的な研究です[1][8]。この作品では、40種類以上の感情を表す言葉が取り上げられ、それらの相関関係が巻末に系図として示されています[8]。

感情の分類と分析

九鬼は、日本語の感情表現を以下のように分類し、分析しています:

  1. 基本的な感情: 愛、憎、嬉しさ、悲しさなどの基本的な感情を定義し、その特徴を説明しています[2]。
  2. 複合的な感情: 基本的な感情から派生する複雑な感情の構造を解明しようと試みています。
  3. 日本特有の感情: 「いき」や「風流」など、日本文化に根ざした独特の感情表現にも焦点を当てています[1][3]。

哲学的アプローチ

九鬼は、西洋哲学の知識を背景に、日本の感情表現を哲学的に分析しています。特に、デカルトの『情念論』との比較を通じて、九鬼の情緒論の哲学的特質を明らかにする研究も行われています[5]。

情緒と人間存在の関連性

九鬼は、情緒を単なる感情の表現としてだけでなく、人間存在と深く結びついたものとして捉えています。『情緒の系図』では、人間存在と情緒の関連が中心テーマとなっており、感情を通じて人間の本質を探求しようとする姿勢が見られます[4]。

文学との関連

九鬼は、日本の古典文学、特に和歌を多く引用しながら、感情の微妙な違いや関係性を説明しています。例えば、「寂しさ」「悲しみ」「哀れみ」など、一見似ている感情の違いを、和歌を通じて詳細に分析しています[6]。

系図の意義と課題

巻末に示された感情の系図は、九鬼の情緒論の集大成とも言える部分です。しかし、この系図は意欲的な試みではあるものの、各感情の言葉の成り立ちや関係性の説明に至るまでの過程には、さらなる考察の余地があるとされています[8]。

現代的意義

『情緒の系図』は、日本人の感情表現の豊かさを体系的に示した先駆的な研究として、現代でも高く評価されています。感情研究や文化心理学の分野において、重要な参考文献として位置づけられています。

結論

九鬼周造の『情緒の系図』は、日本語の感情表現の複雑さと豊かさを哲学的に分析し、体系化した画期的な作品です。西洋哲学の知識を背景としながらも、日本独自の感情表現を深く掘り下げ、人間存在との関連性を探求した点で、日本の哲学史上重要な位置を占めています。この作品は、日本文化の理解を深めるだけでなく、人間の感情の普遍性と文化的特殊性を考察する上でも、今なお大きな示唆を与え続けています。

Citations:
[1] https://www.iwanami.co.jp/book/b246134.html
[2] http://technoscenario.web.fc2.com/jyoutyo/body.html
[3] https://m-opac.nul.nagoya-u.ac.jp/iwjs0023opc/catdbl.do?pkey=WB03686284&hidden_return_link=true
[4] https://jwu.repo.nii.ac.jp/record/2876/files/113-130%E7%9F%B3%E7%91%A9.pdf
[5] https://jwu.repo.nii.ac.jp/record/3131/files/08%20%E4%BA%BA%E7%A4%BE%E7%A0%9425%E5%8F%B7%20%E7%9F%B3%E8%AB%96%E6%96%87.pdf
[6] https://bookmeter.com/books/12091104
[7] https://ameblo.jp/junchikuwa/entry-12865740106.html
[8] https://note.com/cherrycoupe/n/ne2f9721ede1c
[9] https://www.bokenbooks.com/items/71236406
[10] https://booklog.jp/item/1/B071JM5Q6X

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