キケロ『老境について』について

キケロ『老境について』 西洋哲学
キケロ『老境について』

マルクス・トゥリウス・キケロ(Marcus Tullius Cicero、紀元前106年 – 紀元前43年)の『老境について』(Cato Maior de Senectute、カトー・マイオール・デ・セネクトゥーテ)は、紀元前44年に61歳のキケロによって執筆された哲学的エッセイです。この作品は、老年期の生き方や人生の意義について深く考察した古典的な哲学書として、現代でも多くの人々に読み継がれています。

作品の構成は、ローマの政治家である大カトーが、将来有望な2人の若者(スキピオ・アエミリアヌスとガイウス・ラエリウス)を自邸に招いて老年について語る対談形式になっています。

キケロは、老年期に対する一般的な批判や不安を4つの主要な点に要約しています:

  1. 活動的な仕事から退くこと
  2. 体力の衰え
  3. 快楽を享受できなくなること
  4. 死が近づくこと

これらの批判に対して、キケロ(大カトーの口を借りて)は以下のように反論しています:

  1. 老年期には、肉体的な力の代わりに思慮深さや判断力が備わり、むしろ高度な仕事ができるようになる。
  2. 熱意と活動を持続させることで、健康を維持することができる。また、知力は増し、記憶力も衰えることはない。
  3. 老年期は欲情から解放され、精神的な喜びや友人との対話、自然との触れ合いなど、より高尚な楽しみを享受できる。
  4. 死はすべての年齢に共通のものであり、人生が満ち足りていたかどうかが重要である。

キケロは、老年期をポジティブに捉え、その利点を強調しています。例えば、老年期には若い時の誘惑から解放され、理性的に生きることができるとしています。また、適度な食事や友人との会話、自然に囲まれた生活など、老年期ならではの喜びがあると説いています。

さらに、キケロは老年期の人々に対する一般的な偏見(気短で、苦労性で、怒りっぽいなど)を否定し、そのような性格は若者にも見られる一方で、温厚で気長な老人も多いと主張しています。

この作品は、キケロ独自の思想というよりは、ギリシア哲学のストア派の道徳的処世論などを参考にしながら折衷した内容となっています。しかし、その実践的な知恵と老年期に対する前向きな姿勢は、現代の読者にも有益なアドバイスとなりうるものです。

『老境について』は、老年期を恐れるのではなく、むしろその価値を認識し、充実した人生の締めくくりとして捉えることを提唱しています。キケロの洞察は、今日の高齢化社会においても重要な示唆を与えてくれるものと言えるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました