リッケルト『認識の対象』について

リッケルト『認識の対象』 西洋哲学
リッケルト『認識の対象』

ハインリヒ・ヨーン・リッケルト(Heinrich John Rickert、1863年 – 1936年)の著作『認識の対象』(Der Gegenstand der Erkenntnis)は、新カント派の代表的哲学者であるリッケルトの認識論における主著として知られています。この著作は、リッケルトの哲学的思想の核心を示すものであり、認識の本質と対象に関する深い考察が展開されています。

著作の背景と重要性

リッケルトは1863年にダンツィヒで生まれ、実証主義の研究から出発しましたが、後に先験論的観念論と価値論的文化哲学の立場を確立しました[1][3]。『認識の対象』は、この哲学的発展の過程で生み出された重要な著作です。西田幾多郎は「リッケルトの哲学を理解するには是非とも此書から始めねばならぬ」と評しており、その重要性が伺えます[1]。

主要な内容

認識の本質と対象

リッケルトは、認識を単なる対象の受動的な把握ではなく、能動的な判断の過程として捉えています。彼によれば、認識とは主語(非合理的内容)と述語(合理的形式)を結合させる行為であり、この過程には必然的に価値判断が伴います[3]。

認識の対象については、リッケルトは伝統的な認識論の困難を指摘しています。第一の困難は、認識する主観から独立した事物の世界が存在するかどうかを決定できないことです。第二の困難は、そうした世界が実在に存在するのかどうかを決定できないことです[2]。

価値と認識

リッケルトの認識論の特徴は、価値の概念を中心に据えている点です。彼は、認識が多様な現実の中から「知るに値するもの」を選択し把握する過程であると主張しました。この選択の基準となるのが価値であり、これを「価値関係」と呼びました[3]。

文化科学と自然科学の区別

『認識の対象』では、リッケルトの文化科学と自然科学の区別に関する考えも展開されています。自然科学が一般的法則を追求するのに対し、歴史や文化に関する科学(文化科学)は個別的で価値関係的な認識を目指すとされます[3]。

先験論的観念論

リッケルトは、カントの先験論的観念論を発展させ、認識の対象が意識の外部に存在するのではなく、認識主体の判断によって構成されるという立場を取りました。この考えは、『認識の対象』において詳細に論じられています[1][3]。

著作の構成と内容

『認識の対象』は、認識論的な懐疑から始まります。リッケルトは、素朴な認識論を批判し、認識の対象が単に外界の事物ではないことを示します[2]。

著作の中で、リッケルトは以下のような問いを探求しています:

  1. 認識の対象とは何か
  2. 認識はどのようにしてその客観性を獲得するか
  3. 認識する意識から独立した実在というものが存在するかどうか[2]

これらの問いを通じて、リッケルトは伝統的な認識論の限界を指摘し、新たな認識論の構築を試みています。

著作の影響と受容

『認識の対象』は、20世紀初頭の哲学界に大きな影響を与えました。特に、ドイツの歴史学に哲学的基礎を与えたことが注目されます[3]。

日本では、大正5年(1916年)に山内得立によって『認識の対象』が翻訳され、岩波書店から出版されました[4]。これにより、リッケルトの思想が日本の哲学界に広く紹介されることとなりました。

結論

『認識の対象』は、リッケルトの認識論の核心を示す著作であり、価値と認識の関係、文化科学と自然科学の区別、先験論的観念論の発展など、多岐にわたる哲学的テーマを扱っています。この著作は、新カント派の思想を代表するものとして、20世紀の哲学史において重要な位置を占めています。

リッケルトの価値哲学と文化科学の概念は、現代の認識論や科学哲学にも影響を与え続けており、『認識の対象』はその思想の原点として今なお研究され続けています。この著作を通じて、リッケルトは認識の本質と対象に関する新たな視点を提供し、哲学的思考の深化に大きく貢献したと言えるでしょう。

Citations:
[1] https://www.iwanami.co.jp/book/b246825.html
[2] https://heidegger.hatenablog.com/entry/2015/01/20/164013
[3] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%88
[4] https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784003364826

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