アーデルベルト・フォン・シャミッソー(Adelbert von Chamisso、1781年 ‐ 1838年)の『ペーター・シュレミールの不思議な物語』(Peter Schlemihls wundersame Geschichte)は、1814年に発表されたドイツロマン主義を代表する短編小説です。
この作品は、ドイツ国内外で広く知られ、フランス語、英語、イタリア語など多くの言語に翻訳されました。日本でも複数の翻訳が出版されており、「影を売った男」「影をなくした男」などのタイトルで知られています。
物語の主人公ペーター・シュレミールは、金策のために富豪の屋敷を訪れます。そこで灰色の服を着た奇妙な男と出会い、その男から「幸運の金袋」と引き換えに自分の影を売ることを提案されます。シュレミールは躊躇しながらもこの取引に応じてしまいます。
金袋のおかげで豊かな生活を送れるようになったシュレミールですが、影がないことで周囲の人々から非難や嘲笑を浴びるようになります。社会から疎外され、恋人のミーナにも去られてしまいます。
1年後、灰色の男(実は悪魔)が再び現れ、影を返す代わりにシュレミールが死んだあとの魂を要求します。シュレミールは魂を売ることを拒否し、金袋も捨ててしまいます。
最後に、シュレミールはなけなしの金で靴を手に入れるが、この靴は一歩で七里を歩くことができる魔法の靴(七里靴)だった。そして、彼は世界中を旅して自然研究に没頭する新たな人生を見出します。
この物語は、民間伝承のメルヒェン的要素を用いながら、富と幸福、社会の因襲とアウトサイダー、愛などの現実的・社会的な問題を象徴的に表現しています。また、シャミッソー自身のフランス人としてドイツに亡命した経験が反映されており、アイデンティティの喪失や所属感の欠如といったテーマも読み取れます。
物語は、人間の自己欺瞞や物欲への依存を批判しつつ、ユーモアやウィットに富んだ軽やかな作品に仕上げられています。キリスト教的価値観から見れば、魂は何にも代えがたい大切なものであり、シュレミールが魂を売ることを拒否し続ける点も重要です。
『ペーター・シュレミールの不思議な物語』は、ロマン主義文学の代表作として高く評価され、後世の作家たちにも影響を与えました。例えば、E.T.A.ホフマンがこの作品に影響を受けて『大晦日の夜の冒険』を執筆したことが知られています。
この物語は、人間の本質や社会との関係、物質的価値と精神的価値の対比など、普遍的なテーマを扱っており、現代においても読み継がれ、様々な解釈や翻案が生み出されています。


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