コロレンコ『盲音楽師』について

コロレンコ『盲音楽師』 ロシア文学
コロレンコ『盲音楽師』

ウラジーミル・ガラクティオノヴィチ・コロレンコ(Влади́мир Галактио́нович Короле́нко、1853年 – 1921年)の小説『盲音楽師』(Слепой Музыкант)は、1886年に発表された作品で、生まれつき盲目の少年ピョートル・ポペリスキーの成長と音楽家としての成功を描いた物語です。

物語の概要

物語は、ウクライナ西部のヴォルィニ地方を舞台に、1860年代後半から1880年代初頭にかけて展開します。主人公のピョートルは、裕福な家庭に生まれた盲目の少年です。彼の周りには、愛情深い母アンナ、自己抑制的な父、そしてガリバルディと共に戦った経験を持つ片足の叔父マクシムがいます。

ピョートルは幼少期から音楽の才能を示し、農民のイオヒムの笛の演奏に影響を受けます。叔父マクシムは、ピョートルに厳しくも熱心な教育を施し、彼の成長を見守ります。

成長と葛藤

物語は、ピョートルが世界を理解していく過程を丁寧に描写しています。彼は音を通じて周囲の環境を把握し、徐々に自己形成していきます。幼なじみのエヴェリーナとの友情が愛情に発展する様子や、他の盲人との出会いによって精神的危機を迎える場面なども描かれています。

ピョートルは自身の盲目性に苦悩し、時に「なぜ盲目の人間が生きる必要があるのか」と自問します。しかし、厩番や鐘撞き、巡礼などの人々との交流を通じて、民衆の喜びや悲しみを知り、徐々に自己の存在意義を見出していきます。

音楽と成長

コロレンコは、音の力を息をのむほど美しく描写しています。ピョートルは音楽を通じて自己表現の手段を見出し、その才能を磨いていきます。物語の終盤では、キエフの「契約」市で演奏会を開き、音楽家としての成功を収めます。

主題と特徴

『盲音楽師』は、人間の生の意味、芸術、愛、教育といったテーマを探求しています。コロレンコは、単に盲人の心理を描くだけでなく、人間の理想への憧れや、充実した人生への渇望を表現しようとしました。

物語は、高い芸術性、美しい調和、豊かな抒情性に満ちており、人間への深い愛情と不屈の精神が込められています。コロレンコの文体は端正で情緒豊かであり、時に大仰で時代がかった印象を与えることもあります。

批評と影響

『盲音楽師』は、読者から熱烈な反応を得ました。特に視覚障害者からの反応が注目されます。ロシア初の視覚障害者の教授であるアレクサンドル・シチェルビナは、ピョートルの心理描写に批判的な見解を示しました。

一方で、この作品は多くの読者に愛され、コロレンコの代表作の一つとなりました。1960年には映画化もされています。

『盲音楽師』は、障害を持つ人間の内面世界と成長を描いた感動的な物語として、今日でも多くの読者に親しまれています。

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