アンブローズ・ビアス(Ambrose Bierce、1842年 – 1913年12月26日以降消息不明)の『悪魔の辞典』(The Devil’s Dictionary)は、19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカで活躍した作家による風刺的な辞書です。この作品は1906年に『冷笑家用語集』(The Cynic’s Word Book)として最初に出版され、1911年に著者の好む題名である『悪魔の辞典』として再発行されました。
ビアスは1881年から1886年にかけて編集していた週刊誌『ウォスプ』に辛辣な定義を掲載し始め、これらを集めて辞書形式にまとめました。彼の簡潔で警句的なスタイルと幅広い教養を活かし、社会、職業、宗教的慣習を風刺しています。
『悪魔の辞典』に収録されている定義のいくつかを紹介します:
- 「幸福」〈名詞〉他人の不幸を眺めることから生ずる気持ちのよい感覚
- 「外交」〈名詞〉祖国のために偽りをいう愛国的な行為
- 「アカデミー」〈名詞〉フットボールを教える現代の学校
- 「美」〈名詞〉女性が恋人を魅了し、夫を恐れさせる力
- 「歴史」〈名詞〉ほとんど重要でない出来事について、主に悪党である支配者と主に愚か者である兵士によってもたらされた、ほとんど虚偽の記録
- 「想像力」〈名詞〉詩人と嘘つきが共同所有する事実の倉庫
- 「弁護士」〈名詞〉法律を回避することに長けた者
- 「結婚」〈名詞〉主人、女主人、そして2人の奴隷からなる家庭。全部で2人
- 「祈り」〈動詞〉明らかに価値のない一人の請願者のために、宇宙の法則を無効にするよう求めること
- 「聖人」〈名詞〉改訂され編集された死んだ罪人
これらの定義は、ビアスの冷笑的な視点と風刺精神を遺憾なく発揮しています。彼は社会規範や人々が正しいと認識しているものを批判的に捉え、宗教、政治、一般的な人間の慣行を嘲笑しています。
『悪魔の辞典』の影響は日本にも及び、芥川龍之介がビアスを日本に最初に紹介したとされています。芥川の『侏儒の言葉』は、この『悪魔の辞典』から何らかの影響を受けて書かれたのではないかと言われています。
ビアスの辞典は、その鋭い洞察力と皮肉な表現で今日でも読み継がれており、社会批評や言葉遊びの傑作として評価されています。彼の定義は、人間の本性や社会の矛盾を鋭く指摘し、読者に新たな視点を提供しています。


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