ウォルター・バジョット(Walter Bagehot、1826年 – 1877年)の『ロンバード街:金融市場の解説』(Lombard Street: A description of the money market)は、19世紀のロンドン金融市場の詳細な分析と、中央銀行の役割に関する先駆的な洞察を提供した重要な著作です。
著書の背景と目的
バジョットは、1873年に本書を執筆し、当時のロンドンの金融中心地であるロンバード街の複雑な仕組みを明快に説明しました[1][2]。彼の目的は、抽象的な経済理論ではなく、金融市場の具体的な現実を描写することでした[2]。
主要な内容
金融市場の分析
バジョットは、イングランドの経済力のかつてない規模と、特にロンドンに集中する巨大な貸付資金について論じています[2]。彼は、イギリスの商業の民主的な性質が革新を促進する一方で、倫理の希薄化や詐欺的行為の増加といった問題も引き起こしていると指摘しました[2]。
金融システムの脆弱性
著者は、広範な借入文化がもたらす脆弱性について警告しています。突然の預金引き出し要求がシステムを不安定化させる可能性があると指摘し、オーバーエンド・ガーニー社の崩壊などの歴史的事例を挙げて、金融システムの監視の必要性を強調しました[2][4]。
中央銀行の役割
『ロンバード街』は、金融危機時における中央銀行の対応に関する分析で特に有名です[1]。バジョットは、後に「バジョットの原則」として知られるようになる中央銀行の行動規範を提唱しました[3]。
バジョットの原則
バジョットは、金融危機時に中央銀行が取るべき行動について、以下の3つの原則を示しました:
- 自由に貸し付けること(Lend freely)
- 高金利で貸し付けること(At a high rate of interest)
- 良質な銀行証券を担保とすること(On good banking securities)[1][5]
これらの原則は、金融パニックを防ぎ、市場の安定を維持するための指針となりました。
著書の影響と現代的意義
『ロンバード街』は、その後の中央銀行制度の発展に大きな影響を与えました。アメリカの連邦準備制度や国際通貨基金(IMF)など、多くの金融機関がバジョットの洞察を参考にしています[6]。
現代の中央銀行は、経済危機に対して大規模な流動性供給で対応していますが、これはバジョットの教えを反映したものと言えます[5]。しかし、バジョットが提唱した「高金利での貸付」という原則は、現代のゼロ金利政策とは対照的です。この点について、一部の専門家は、現代の政策がグローバルなバブルの連鎖を引き起こしている可能性を指摘しています[5]。
著書の特徴と評価
バジョットの文章は、100年以上経った今でも新鮮で明快であると評価されています[6]。彼は、経済や社会制度が外部から与えられるものではなく、社会構成員の相互依存の中で内生的に決定されるという視点を持っていました。これは、現代の経済理論と類似した立場であり、バジョットの先見性を示しています[5]。
結論
『ロンバード街』は、19世紀の金融市場を鮮明に描写するだけでなく、金融危機管理における中央銀行の役割に関する重要な洞察を提供しています。バジョットの原則は、今日でも中央銀行の政策決定に影響を与え続けており、金融システムの安定性を維持するための重要な指針となっています。しかし、現代の金融環境の変化に伴い、バジョットの教えを再検討し、現代の文脈に適応させる必要性も指摘されています。
Citations:
[1] https://en.wikipedia.org/wiki/Lombard_Street:_A_Description_of_the_Money_Market?oldformat=true
[2] https://www.bookey.app/book/lombard-street—a-description-of-the-money-market
[3] https://www.iwanami.co.jp/book/b626367.html
[4] https://novelinvestor.com/notes/lombard-street-a-description-of-the-money-market-by-walter-bagehot/
[5] https://toyokeizai.net/articles/-/6785?display=b
[6] https://www.econlib.org/library/Bagehot/bagLom.html
[7] https://newramblerreview.com/book-reviews/economics/misreading-walter-bagehot-what-lombard-street-really-means-for-central-banking


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