山田盛太郎『日本資本主義分析 ― 日本資本主義における再生産過程把握』

山田盛太郎『日本資本主義分析 ― 日本資本主義における再生産過程把握』 経済
山田盛太郎『日本資本主義分析 ― 日本資本主義における再生産過程把握』

山田盛太郎『日本資本主義分析 ― 日本資本主義における再生産過程把握』は、明治30〜40年代を中心とする日本資本主義の成立・展開を、マルクスの再生産論を手掛かりに「再生産過程」として把握し、日本資本主義の特質を「軍事的半農奴制的資本主義」として規定した理論的・歴史的研究である[1]。

著作の位置づけと基本的視角

本書は『日本資本主義発達史講座』に発表された三本の論文をまとめたもので、いわゆる講座派を代表する理論書として1934年に刊行された。 日本における産業資本の確立過程を、個別事例の羅列ではなく「日本資本主義の全機構」として捉え、その構造的性格を抽出しようとする点に特徴がある。 山田はマルクスの再生産表式を基礎理論に据え、それを日本の歴史的現実に即して具体化することによって、日本資本主義の再生産構造を提示しようとした[2]。

この「再生産過程把握」という副題が示すように、分析の焦点は単なる発展史ではなく、資本主義的関係がどのように再生産され、持続的な社会構造として定着していくかに置かれている。 そこで山田は、生産と分配、産業資本と農業、軍事機構とキー産業など、諸要素の相互連関を一つの再生産構造として描き出すことを目指した[3]。

「軍事的半農奴制的資本主義」という規定

本書の最も有名な結論は、日本資本主義を「軍事的半農奴制的」性格をもつ資本主義として規定した点である。 山田によれば、日本の産業資本は、近代国家の軍事的要請と結びついた軍事機構=鍵鑰産業(けんやくさんぎょう/キー・インダストリー)を軸に確立され、その成長の基盤として半封建的土地所有制に支えられた半農奴制的零細農業が存在した。 つまり、軍需と結びついた紡績・鉄鋼などの鍵鑰産業が、農村の零細自作農・小作農を労働力供給と市場の両面で「隷役土壌」として利用しつつ、帝国主義的膨張へと向かう構造が日本資本主義の特徴だとされる[4]。

このような規定は、土地制度の解体のあり方が資本主義の「型」を規定するという山田の基本問題意識にもとづいており、前近代から近代への移行の仕方が、その後の資本主義の性格を決定づけるという視点が一貫している。 その意味で、「軍事的半農奴制的」という規定は、単なるレッテルではなく、土地所有制・農業構造・軍事機構・産業資本の連関を総合した再生産構造の名称だといえる[5]。

第1編:生産旋回=編成替え

第1編「生産旋回=編成替え」では、産業資本確立期における生産組織の大規模な転換過程が分析される。 ここで山田は、問屋制度的家内工業やマニュファクチュアが、軍事機構=鍵鑰産業の要求のもとで再編され、近代的産業資本へと転化していく過程を、農村からの労働力動員と結びつけて描き出す。 この生産「旋回」は、単なる技術革新ではなく、半隷農的零細耕作者および半隷奴的賃金労働者を基礎とする階級関係の再編であり、ここに日本資本主義の軍事的半農奴制的性格が最初から刻印されているとされる[3]。

具体的には、紡績業の興隆など衣料生産部門が、軍備拡張と植民地政策に支えられて急速に発展し、その生産構造の変化が農村社会の二重構造を強化していく過程が重視される。 こうした分析は、産業構造の変化をマクロな再生産構造の一部として把握しようとする点で、当時として先駆的な試みであった[2]。

第2編:旋回基軸としての軍事機構=鍵鑰産業

第2編「旋回基軸」では、第1編で示された生産旋回を駆動する「基軸」として、軍事機構=鍵鑰産業の構成と機能が論じられる。 山田は、軍事機構が単なる上部構造ではなく、資本主義的再生産過程の中核に位置する産業部門を形成し、それが他部門を従属させつつ統一する役割を果たしているとみる。 ここでいう鍵鑰産業とは、軍需に直結しながら他の諸産業を牽引する重工業・紡績などであり、その成長が日本資本主義の帝国主義的膨張と不可分であるとされる[6]。

この旋回基軸を通じて、農業部門・軽工業部門・重工業部門が、軍事的要求に即して再編成されることで、日本資本主義全体の再生産構造が形づくられていく。 つまり、再生産過程の中心に軍事機構を置くことで、日本の資本主義的発展を平時の市場競争だけでは説明できない特異な構造として描き出している[1]。

第3編:基柢としての半封建的土地所有制

第3編「基柢」では、日本資本主義の基礎規定としての半封建的土地所有制と半農奴制的零細農耕が論じられる。 山田は、農村の零細耕作農民が地代・租税・軍事負担など多重の収奪にさらされる一方、その困窮が都市産業への労働力供給源となり、さらに軍事的動員の基盤ともなる点に注目する。 このような農業構造は、前近代的残存ではなく、日本資本主義の再生産構造の不可欠な要素として再機能化しているとされる[7]。

したがって、日本資本主義の再生産過程は、半封建的土地所有制を土台としつつ、軍事機構=鍵鑰産業を頂点にしたピラミッド型の構造として理解される。 この構造規定が「軍事的半農奴制的資本主義」という概念に凝縮されており、土地制度・農業・産業・軍事を包括する「全機構」的把握として提示されている[5]。

方法論と評価

方法論的には、山田はマルクスの再生産表式を、日本資本主義の再生産構造=全機構的把握の基礎理論として位置づけ、それを歴史的・具体的分析へと「具体化」することを意図した。 その結果、日本資本主義論争の中で本書は画期的名著と評価され、当時の知識人に強い影響を与えた一方で、「型」分析の硬直性や、動態的展開の軽視などが労農派や後続の宇野経済学から批判された。 それでも、日本資本主義を再生産過程の全体構造として捉え、その特質を「軍事的半農奴制的」として抽出した本書は、日本資本主義論・再生産論の双方において今日でも参照され続けている[8]。

Citations:
[1] https://kotobank.jp/word/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%B3%87%E6%9C%AC%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E5%88%86%E6%9E%90-1193031
[2] https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784003414811
[3] https://www.iwanami.co.jp/book/b248636.html
[4] http://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/oz/contents/781_05.pdf
[5] https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/4/41994/20160528040151344195/oer_019_3-4_165_182.pdf
[6] https://www.eco.nihon-u.ac.jp/wp-content/uploads/2024/07/94-1-4.pdf
[7] https://kw.maruzen.co.jp/ln/hiroba/column/citan17-2.html
[8] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E7%94%B0%E7%9B%9B%E5%A4%AA%E9%83%8E

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