デュ・ボア・レーモン『自然認識の限界について・宇宙の七つの謎』について

デュ・ボア・レーモン『自然認識の限界について・宇宙の七つの謎』 自然科学・医学
デュ・ボア・レーモン『自然認識の限界について・宇宙の七つの謎』

エミール・ハインリヒ・デュ・ボア=レーモン(Emil Heinrich du Bois-Reymond、1818年 – 1896年)は、19世紀のドイツを代表する生理学者であり、科学思想家でした。彼の著書『自然認識の限界について』(1872年)と『宇宙の七つの謎』(1880年)は、科学の限界と人間の認識能力に関する重要な議論を展開し、当時の科学界に大きな影響を与えました。

『自然認識の限界について(Über die Grenzen der Naturerkenntnis)』

この著作は、1872年にライプツィヒで開催された第45回ドイツ自然科学者・医師協会での講演に基づいています。デュ・ボア=レーモンは、科学的方法論の限界を指摘し、特に意識や自由意志に関する問題を取り上げました[1][3]。

主要な論点

  1. 科学的認識の限界: デュ・ボア=レーモンは、当時の機械論的物理学に基づく自然科学の方法論では、物質や力の本質、そして意識の問題を完全に解明することは不可能だと主張しました[3]。
  2. 「無知」の宣言: 講演の結論部分で、彼は有名な「Ignoramus et ignorabimus」(我々は知らないし、これからも知ることはないだろう)という言葉を用いました。これは、科学の進歩に対する楽観主義に警鐘を鳴らすものでした[3]。
  3. 還元主義批判: デュ・ボア=レーモンは、機械論的還元主義の限界を指摘し、特にクオリア問題(主観的な意識体験)は科学的方法では解決できないと論じました[3]。

『宇宙の七つの謎(Die sieben Welträtsel)』

この著作では、デュ・ボア=レーモンは人類が直面する7つの根本的な謎を提示しました。これらの謎は、科学的探究の限界と可能性を示すものとして議論されました[5]。

七つの謎

  1. 物質と力の本質
  2. 運動の起源
  3. 感覚の発生
  4. 生命の起源
  5. 自然の合目的的な構造
  6. 人間の思考と言語
  7. 意志の自由

デュ・ボア=レーモンは、これらの謎を解決可能性の観点から分類しました[5]:

  • 超越的(原理的に解決不可能): 1, 2, 3の謎
  • 原理的に解決可能: 4, 5の謎
  • 解決可能だが未解決: 6の謎
  • 解決可能性不明: 7の謎

著作の影響と反響

デュ・ボア=レーモンの主張は、当時の科学界に大きな論争を引き起こしました。「イグノラビムス論争」として知られるこの議論は、科学の可能性と限界に関する重要な哲学的考察を促しました[3]。

一方で、エルンスト・ヘッケルのような科学者は、デュ・ボア=レーモンの懐疑主義に反対し、科学の無限の可能性を主張しました。ヘッケルは『宇宙の謎』という著作で、すべての謎は原理的に科学によって解決可能であると主張しました[5]。

現代的意義

デュ・ボア=レーモンの著作は、科学哲学や認識論の分野で今日も重要な位置を占めています。彼の提起した問題、特に意識の問題(ハードプロブレム)や自由意志の問題は、現代の哲学や神経科学でも活発に議論されています。

また、彼の著作は科学の限界を認識しつつ、その価値を肯定するという均衡の取れた立場を示しており、科学と哲学の関係を考える上で重要な視点を提供しています[3]。

デュ・ボア=レーモンの思想は、科学の進歩に対する楽観主義と、人間の認識能力の限界に対する謙虚さのバランスを取ることの重要性を示唆しています。この視点は、現代の科学技術が急速に発展する中で、特に重要性を増しているといえるでしょう。

Citations:
[1] https://yakumoizuru.hatenadiary.jp/entry/2024/02/23/015358
[2] https://kotobank.jp/word/%E3%81%A7%E3%82%86%E3%81%BC%E3%81%82%E3%82%8C%E3%81%84%E3%82%82%E3%82%93-1567062
[3] https://de.wikipedia.org/wiki/Emil_du_Bois-Reymond
[4] https://uchuronjo.com/cosmo/19c.html
[5] https://de.wikipedia.org/wiki/Weltr%C3%A4tsel

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