エミル・ベルナール(Émile Bernard、1868年 – 1947年)の著作『回想のセザンヌ』(Souvenirs sur Paul Cèzanne)は、近代絵画の巨匠ポール・セザンヌに関する貴重な証言を記録した作品です。この著作は、画家であり美術批評家でもあったベルナールがセザンヌを直接訪問した際の体験を綴ったものです。
著作の背景
ベルナールは、当時まだ十分に評価されていなかったセザンヌに深い敬意を抱き、熱心に研究していた数少ない人物の一人でした。セザンヌが敵意、嫉妬、無視の中にあった時期に、ベルナールはその真価を見出し、積極的に交流を持とうとしていました。
内容の概要
『回想のセザンヌ』は、ベルナールがセザンヌを訪問した際の体験や会話を詳細に記録しています。この作品を通じて、読者はセザンヌの芸術観や制作過程、さらには彼の人間性についての貴重な洞察を得ることができます。
セザンヌの芸術観
ベルナールは、セザンヌの独特な芸術観や絵画技法について詳しく記述しています。特に有名な「自然は、球体、円錐体、円筒体として取り扱わなければならぬ」というセザンヌの言葉が、この著作の中で紹介されています。
制作過程と日常生活
作品には、セザンヌの制作現場や彼の日々の制作習慣についての観察が記されています。例えば、スケッチに向かうセザンヌが近所の悪ガキたちから石を投げられていたという意外なエピソードも披露されており、興味深い内容となっています。
セザンヌの人間性
ベルナールは、セザンヌの性格や日常生活についても詳しく描写しています。気難しい印象があるセザンヌですが、実は他者に対してたいへんな優しさを持った人物であり、自己の弱さを自覚しながら懸命に創作に打ち込んだ画家であったことが描かれています。
著作の特徴
- 直接的な証言:ベルナールがセザンヌと直接交流した経験に基づいているため、一次資料としての価値が高い。
- 芸術論と人間性の融合:セザンヌの芸術に対する考えだけでなく、その人間的側面も描かれている。
- 晩年のセザンヌ像:人々との交流を避けがちだったセザンヌが、晩年にベルナールを暖かく迎え入れ、死ぬまで交流を続けたことが記されている。
日本での受容
日本では、岩波文庫から『回想のセザンヌ』の翻訳が出版されており、美術愛好家や研究者の間で広く読まれています。有島生馬による翻訳は1913年に行われ、1953年に改訳版が出版されました。
著作の意義
『回想のセザンヌ』は、セザンヌ研究において非常に重要な一次資料として位置づけられています。ベルナールが直接セザンヌと交流し、その言葉や行動を記録したことで、後世の研究者や芸術家たちにとって貴重な情報源となっています。
この作品は、セザンヌの芸術や人生についての理解を深めるだけでなく、19世紀末から20世紀初頭にかけての芸術界の状況や、当時の芸術家たちの交流についても多くの示唆を与えています。
結論
エミール・ベルナールの『回想のセザンヌ』は、ポール・セザンヌという偉大な芸術家の内面や創作過程を、同時代の画家の視点から描き出した貴重な証言録です。この作品を通じて、読者はセザンヌの芸術世界により深く入り込むことができ、近代美術史を理解する上で欠かせない資料となっています。

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