シラー『美と芸術の理論 カリアス書簡』について

シラー『美と芸術の理論』 芸術理論・美学
シラー『美と芸術の理論』

ヨーハン・クリストフ・フリードリヒ・フォン・シラー(独語: Johann Christoph Friedrich von Schiller)の『カリアス書簡』(Kallias-Briefe)は、18世紀末のドイツ文学および美学思想において重要な位置を占める作品です。この書簡集は、シラーが1793年1月から2月にかけて、友人のクリスティアン・ゴットフリート・ケルナーに宛てて書いたものです[1][5]。

カリアス書簡の背景と目的

シラーは当初、『カリアス、または美について』(Kallias, oder Über die Schönheit)という大規模な美学論文を執筆する計画を立てていましたが、時間の制約により実現しませんでした[5]。そのため、これらの書簡がシラーの美学思想を理解する上で貴重な資料となっています。

シラーは、カントの『判断力批判』(1790年)に触発されつつも、カントの美学理論に対して批判的な立場を取りました[3]。特に、以下の2点についてカントの主張に不満を感じていました:

  1. 美の客観的原理が存在しないという主張
  2. 美的経験が主観の快感のみを指し、対象の性質を指さないという主張

シラーの美学理論

シラーは、カントの超越論的演繹の手法を用いて、美の客観的原理を発見しようと試みました[3]。その結果、人間には理論理性と実践理性という2つの形式の理性があると結論づけました。

美の定義

1793年2月8日付の書簡で、シラーは美の定義を次のように述べています:

「美とは、現象における自由に他ならない」(”Schönheit ist nichts anderes als Freiheit in der Erscheinung.”)[5]

この定義は、シラーの美学理論の核心を表しています。シラーによれば、ある対象が美しいと感じられるのは、その対象が外的な法則から自由であり、自らの本性によってのみ規定されているように見える場合です[1]。

自己決定と自由

シラーは、自由であることを「自己自身によって規定されていること」、つまり「内から規定されていること」と定義しています[2]。この自己決定の表象を我々に呼び起こすのは、対象の形式であるとシラーは考えました。

例えば、ある器が美しいと感じられるのは、その器の把手が概念によって存在しているにもかかわらず、自然の自由な戯れと同じように見える場合です[2]。把手は強制されずに自発的に出っ張っているように見え、その形式が自由なものと感じられる必要があります。

カントとの相違点

シラーの美学理論は、カントの「目的なき合目的性」としての美の規定とは本質的に異なっています[2]。シラーは、論理的判断や目的論的判断を理論理性による認識活動に帰し、これとは区別された実践理性の形式から美の性質を導き出すことを試みました。

美学と道徳の関係

『カリアス書簡』では、美的経験と道徳的行為の関係についても言及されています。シラーは、美的経験が道徳的自由の類比であると考え、感性界における自己決定が純粋な自然の決定、つまり美であると主張しました[3]。

この考えは、後の『優美と尊厳について』(Über Anmut und Würde)という論文でさらに発展され、道徳と美学を橋渡しする概念として「優美」と「尊厳」が用いられることになります[3]。

結論

『カリアス書簡』は、シラーが美の客観的原理を探求し、カントの美学理論を乗り越えようとした重要な試みです。「現象における自由」という美の定義を中心に、シラーは美的経験と道徳的自由の関係を探求し、後の美学思想に大きな影響を与えました。

この書簡集は、シラーの美学思想の発展過程を示す貴重な資料であり、ドイツ観念論における美学の重要性を示す一例となっています。シラーの理論は、美的経験を通じて人間の自由を実現するという理想を追求し、後の美学および文化理論に大きな影響を与えました。

Citations:
[1] https://sites.google.com/site/germanliterature/18th-century/schiller/kallias-letters
[2] https://api.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/2328426/p099.pdf
[3] https://plato.stanford.edu/entries/schiller/
[4] https://www.academia.edu/36490526/The_concept_of_Aesthetic_Freedom_in_Friedrich_Schiller
[5] https://de.wikipedia.org/wiki/Kallias-Briefe

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