クラウゼヴィッツ『戦争論』について

クラウゼヴィッツ『戦争論』 政治
クラウゼヴィッツ『戦争論』

カール・フォン・クラウゼヴィッツ(Carl Philipp Gottlieb von Clausewitz、1780年 – 1831年)の『戦争論』(独:Vom Kriege)は、近代戦争の本質を分析し、政治と戦争の関係性を深く考察した画期的な著作です。以下に、その主要な内容をまとめます。

戦争の定義と本質

クラウゼヴィッツは戦争を次のように定義しています:

「戦争とは、相手に自分の意思を強要するための暴力行為である」[1]

さらに、彼は戦争を政治の延長線上にあるものとして捉え、以下のように述べています:

「戦争は他の手段を持ってする政治の継続にすぎない」[3]

この考えは、戦争が単なる軍事行動ではなく、政治目的を達成するための手段であることを示しています。

戦争の三要素

クラウゼヴィッツは戦争の本質を「驚くべき三位一体」として説明しています[2]:

  1. 暴力と憎悪(人民の領域)
  2. 偶然と蓋然性(軍隊と司令官の領域)
  3. 政治的手段としての従属性(政府の領域)

これらの要素が相互に作用し合うことで、戦争の複雑な性質が形成されるとしています。

暴力と憎悪

これは戦争の最も基本的な性質を表しています[7][8]。

  • 戦争の本質的な暴力性を指します
  • 国民や民族の感情に根ざした憎しみや敵対心が原動力となります
  • 敵の抵抗力を無力化することを目指す極限的な暴力の発露につながります

例えば、ナポレオン戦争時の革命への情熱や周辺国の猜疑心などが、この要素を引き出したと考えられます[3]。

偶然と蓋然性

これは戦争の不確実性を表す要素です[7][8]。

  • 戦争の遂行における予測不可能な「摩擦」や偶発的事象を指します
  • 軍事的天才とは、この偶然性を味方につける能力を持つ者とされます
  • 戦争の結果は常に不確実性を伴うことを示しています

クラウゼヴィッツは、この要素が戦争を「自由な精神活動」たらしめると考えました[10]。

政治的手段としての従属性

これは戦争の目的合理性を表す要素です[7][8]。

  • 戦争は政治目的達成のための手段であるという考えを示します
  • 「戦争は他の手段をもってする政治の継続である」という有名な言葉もこれを表しています
  • 戦争は常に上位の政治目的に従属するものであり、理性的な判断が必要とされます

この要素は、軍事的勝利が必ずしも政治的勝利を意味しないことを示唆しています[9]。

クラウゼヴィッツは、これら3つの要素が相互に依存し、一体となって戦争の全体を構成していると考えました。戦争の性質や規模によって、各要素の比重は変化しますが、どの戦争もこの三位一体の性質を持つとされています[9]。

絶対戦争と現実の戦争

クラウゼヴィッツは「絶対戦争」と「現実の戦争」を区別しています[2]:

  • 絶対戦争:理論上の極限状態で、無制限の暴力と最大限の力の行使を伴う(戦争が自己目的化し、政治的な制約を超えて暴力が極限に達する状況)
  • 現実の戦争:政治目的、経済的制約、社会的動態、人間行動の予測不可能性などによって制限される

クラウゼヴィッツの『戦争論』における「絶対戦争」と「現実の戦争」について、以下のように説明します。

絶対戦争

絶対戦争とは、理論上の極限的な戦争の形態を指します。

  • 敵を完全に打倒するまで戦う戦争の形態です[11]。
  • 戦争の本質を「拡大された決闘」と捉え、物理的な強制力によって敵に自らの意思を強制することを目指します[11]。
  • 敵戦力の完全な殲滅を究極の目的とします[7]。
  • 戦争が自己目的化する傾向が強く、極限にまで到達するとされます[7]。

クラウゼヴィッツは、この絶対戦争の概念を戦争の原型として導き出しました。これは、戦争の本質的な性質を理解するための理論的な枠組みとして機能します。

現実の戦争

現実の戦争は、絶対戦争の概念に対置される実際の戦争の形態です。

  • 政治目的に従属し、外交的手段が伴うため、絶対戦争とは異なる形で展開されます[11]。
  • クラウゼヴィッツはこれを「制限戦争」とも呼んでいます[7]。
  • 現実の政治的、社会的、経済的制約を受けるため、絶対戦争のような極限状態には至りません。
  • 「戦争の霧」や「摩擦」といった不確実性や予測不可能な要素が大きく影響します[7]。

現実の戦争では、政治的目的が常に「目的」の位置にあり、戦争はその「手段」に過ぎないとクラウゼヴィッツは考えました[7]。そのため、政治の役割が戦争を抑制する最も重要な要素となります。

クラウゼヴィッツは、これら2つの概念を対比させることで、戦争の本質と現実の複雑さを理解しようとしました。絶対戦争が理論的な極限を示す一方で、現実の戦争は政治や社会の文脈の中で展開される、より複雑な現象として捉えられています。

戦略と戦術

クラウゼヴィッツは戦略と戦術を以下のように定義しています[1]:

  • 戦略:「政治目的に従い、個々の戦いを統率するもの」
  • 戦術:「それぞれの配慮で個々の戦いを遂行させること」

防御と攻撃

クラウゼヴィッツは、一般的な考えとは異なり、防御の優位性を主張しています[1]:

「防御は攻撃よりも強力なり」

彼は、地理的条件や時間の経過が防御側に有利に働き、攻撃側を消耗させると説明しています。

戦争の目的

クラウゼヴィッツによれば、戦争の究極的な目的は敵の抵抗力を奪うことです[6]。抵抗力の3要素は:

  1. 戦闘力
  2. 領土
  3. 敵の意思

これらを破壊または占領し、敵の意思をくじくことが戦争の目的となります。

戦争の不確実性

クラウゼヴィッツは、戦争における不確実性や予測不可能性を「戦争の霧」(Kriegsnebel)と呼び、重要視しています[4]。この不確実性は、戦略の立案や実行に大きな影響を与えます。

政治の優位性

クラウゼヴィッツは、戦争における政治の優位性を強調しています[5]:

「戦争は確かに独自の文法を持つが、独自の論理は持たない」

つまり、戦争は政治目的に従属するべきであり、政治が戦争の方向性を決定すべきだと主張しています。

現代への影響

クラウゼヴィッツの理論は、現代の軍事戦略や国際関係にも大きな影響を与えています。しかし、その解釈や適用については議論が続いております[5]。

『戦争論』は、戦争の本質を深く洞察し、政治と軍事の関係性を明確に示した画期的な著作です。その理論は、今日でも軍事戦略や国際関係の分野で重要な位置を占めています。

Citations:
[1] https://mangadedokuha.jp/blog-column001/
[2] https://www.bookey.app/de/book/vom-kriege
[3] https://diamond.jp/articles/-/323879
[4] https://www.blinkist.com/de/books/vom-kriege-de
[5] https://www.bpb.de/shop/zeitschriften/apuz/archiv/531604/carl-von-clausewitz-und-die-auswirkungen-seiner-theorie-vom-kriege-gedanken-zur-200-wiederkehr-seines-geburtstages-am-1-juni-1980/
[6] https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69632
[7] https://www.nids.mod.go.jp/publication/briefing/pdf/2017/201712.pdf
[8] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%A6%E4%BA%89%E8%AB%96
[9] https://www.jmrlsi.co.jp/menu/mnext/d04/power03-01.html
[10] https://www.learningmilitaryscience.com/%E7%A0%94%E7%A9%B6%E8%B3%87%E6%96%99/%E8%BB%8D%E4%BA%8B%E5%AD%A6%E3%81%AE%E5%9F%BA%E7%A4%8E%E7%9F%A5%E8%AD%98/%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%81%AE%E4%B8%89%E4%BD%8D%E4%B8%80%E4%BD%93
[11] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%B6%E5%AF%BE%E6%88%A6%E4%BA%89
[12] https://diamond.jp/articles/-/323879

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