パウル・トーマス・マン(Paul Thomas Mann、1875年 – 1955年)の『トニオ・クレエゲル』(Tonio Kröger)は、1903年に発表された中編小説で、芸術家の内面的葛藤と社会との関係を描いた自伝的作品です。
主人公のトニオ・クレエゲルは、北ドイツの裕福な商人の父と南欧出身の芸術的な母を持つ少年として登場します。この二重の血筋が、トニオの内面に深い葛藤をもたらします。彼は幼少期から文学的才能を持ちながら、同時に「普通の人々」への憧れと軽蔑を抱いています。
物語は、トニオの少年時代から成人後まで追います。少年時代、トニオは金髪碧眼のハンス・ハンセンに憧れを抱きますが、互いの趣味や性格の違いを痛感します。その後、インゲボルクという少女にも恋をしますが、同様の結果に終わります。
成長したトニオは作家として成功しますが、芸術家としての自己と市民的な自己の間で引き裂かれています。彼は芸術家は「人間らしくない」生き方をすべきだと考える一方で、「人生を愛したい」という矛盾した思いに苦しみます。
物語の転機は、トニオが友人のリザヴェータに悩みを打ち明ける場面です。リザヴェータは彼を「迷子になった普通の人」と評します。この言葉をきっかけに、トニオは故郷への旅に出ます。
故郷で、トニオは過去の自分と向き合い、芸術家としての自己と市民としての自己を統合する道を見出します。最終的に、トニオは自身の二重性を受け入れ、それを創作の源泉とすることを決意します。
『トニオ・クレエゲル』は、芸術家の孤独や疎外感、そして芸術と生活の調和という普遍的なテーマを扱っています。マン自身の経験が色濃く反映された作品であり、彼の芸術観を理解する上で重要な作品とされています。
この小説は、後の日本の作家たちにも大きな影響を与え、三島由紀夫や北杜夫らが影響を受けたことで知られています。
『トニオ・クレエゲル』は、芸術家の内面的葛藤を繊細に描き出すことで、読者に深い共感を呼び起こす作品となっています。マンの初期の代表作として、今なお世界中で愛読されています。




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