カロッサ『美しき惑いの年』について

カロッサ『美しき惑いの年』 ドイツ文学
カロッサ『美しき惑いの年』

ハンス・カロッサ(Hans Carossa、1878年 – 1956年)の『美しき惑いの年』(原題:Das Jahr der schönen Täuschungen)は、1941年に出版された自伝的小説です。この作品は、カロッサが1897年10月から翌年夏までの大学生活を描いたものです。

作品の背景

カロッサは1878年生まれのドイツの作家で、医師でもありました。彼は1897年、19歳の時にミュンヘン医科大学に入学しました。この小説は、その頃の経験を40年以上経った後に回顧して書かれたものです。

物語の概要

物語は、バイエルンの田舎育ちの主人公「私」が、ミュンヘンという大都市に出てきて、大学生活を送る様子を描いています。以下のようなエピソードが含まれています:

  1. 親友のフーゴーとワルターと共に、詩人リヒャルト・デーメルの朗読会に参加する。
  2. 自称フランス人の女性アルディーンとの奇妙な交流。
  3. 知り合いの少女アマーリェへの思慕に似た感情。
  4. 大学での口述試験で化学式が分からず苦心する。
  5. 若き女流詩人エレメンツ・マイヤーの家を訪ねるための徒歩旅行。

文体と特徴

カロッサの文体は、詩的な洗練さに溢れており、数多くの直喩・隠喩を織り込んでいます。物語全体を通して、若者らしい予感と憧憬が描かれると同時に、当時の学芸・思想の動向が控えめな筆致ながらみごとにとらえられています。

作品の基調となっているのは、青年の日々は錯覚の連続であるが、その「美しき錯覚」こそが高次の真実を認識させ、魂を育てるものだという考え方です。

倫理観と表現

カロッサはゲーテを敬愛しており、ゲーテ的な倫理観の持ち主でした。そのため、性的な話題はほとんど出さず、そういった方面に話が及びそうになると、ほのめかし的な言い回しをします。

作品の位置づけ

『美しき惑いの年』は、カロッサの自伝的作品群の中で3番目に位置する作品です。これに先立ち、『幼年時代』『青春変転』といった自伝小説も書いています。

創作と回想の融合

40年以上前の出来事を回想して書かれた作品であるため、その内容が全て真実であると考えるのは早計です。細部まで克明に描写されているものの、記憶違いや創作が混じっている可能性もあります。

作品の評価

カロッサの作品は、人生の暗い部分や退廃にも触れられますが、彼独特の善意とユーモアは乱れることなく、全編を明るく包んでいます。この作品は、若き日の刺激と誘惑に満ちた生活を文学的に描き出すことに成功しており、カロッサの代表作の一つとして評価されています。

『美しき惑いの年』は、単なる自伝でも純粋な小説でもない、「自伝小説」という独特のジャンルに属する作品です。カロッサは自らの生活を逐一列記するのではなく、情報の取捨選択を行いながら、文学的な技巧を用いて若き日の経験を描き出しています。

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