パウル・トーマス・マン(Paul Thomas Mann、1875年 – 1955年)の『ブッデンブローク家の人びと』(Buddenbrooks)は、1901年に発表された長編小説で、ドイツの北部都市リューベックを舞台に、4代にわたる商家の歴史とその衰退を描いた作品です。
この小説は、マン自身の一族の歴史をモデルとしており、1835年から1877年までの約40年間にわたる物語が展開されます。主な登場人物は、ブッデンブローク家の4代目にあたるヨハン・ブッデンブローク・ジュニア(ジャン)とその妻エリザベート、そして彼らの子供たちトーマス、クリスチャン、アントーニエ(トーニ)です。
物語は、ブッデンブローク家が新居に引っ越す場面から始まり、家族の繁栄と没落を通じて、19世紀ドイツの社会変化や価値観の変遷を描いています。特に、商人としての実務的な能力と芸術的・精神的な傾向の対立が、世代を追うごとに顕著になっていく様子が描かれています。
トーマス・ブッデンブロークは、家業を継ぎ、一族の名誉を守ろうと奮闘しますが、内面では不安と苦悩を抱えています。一方、弟のクリスチャンは、芸術的な気質を持ち、家業に適応できません。妹のトーニは、家族の期待に応えようとしながらも、自身の幸せを追求しようとします。
作品の特徴として、客観的な描写が多く、登場人物の内面描写は控えめです。しかし、トーマスの死の場面や、最後の世代であるハンノの音楽への没頭を描く場面では、より観念的な表現が用いられています。
『ブッデンブローク家の人びと』は、19世紀のリアリズム文学の伝統を受け継ぎながら、20世紀初頭のモダニズムの要素も取り入れています。特に、ショーペンハウアーやニーチェの哲学的影響が見られ、進歩の概念に対する懐疑や、意志の重要性が強調されています。
この小説は、ヨーロッパで大きな成功を収め、1929年にマンがノーベル文学賞を受賞した際の主な理由となりました。日本では、北杜夫の『楡家の人びと』に影響を与えたことでも知られています。
作品の解釈については、様々な議論があります。マルクス主義的な視点からは、旧来の家父長的な商業形態から近代的な資本主義への移行を象徴しているとされる一方で、より普遍的な、家族の盛衰のサイクルを描いたものとする見方もあります。
『ブッデンブローク家の人びと』は、家族の歴史を通じて、19世紀から20世紀への転換期のドイツ社会の変化を鮮やかに描き出した作品として、今日も高く評価されています。




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